しんきぎき
真鬼偽鬼

冒頭文

一 文政四年の江戸には雨が少なかった。記録によると、正月から七月までの半年間にわずかに一度しか降雨をみなかったという事である。七月のたなばたの夜に久しぶりで雨があった。つづいて翌八日の夜にも大雨があった。それを口切りに、だんだん雨が多くなった。 こういう年は、いわゆる片降り片照りで、秋口になって雨が多いであろうという、老人たちの予言がまず当った方で、八月から九月にかけて、とかくに曇

文字遣い

新字新仮名

初出

「朝日グラフ」1928(昭和3)年6月

底本

  • 蜘蛛の夢
  • 光文社文庫、光文社
  • 1990(平成2)年4月20日