じひしんちょう
慈悲心鳥

冒頭文

一 人びとの話が代るがわるにここまで進んで来た時に、玄関の書生が「速達でございます。」といってかさ高の郵便を青蛙堂主人のところへ持って来た。主人はすぐに開封すると、それは罫紙に細かく書いた原稿ようのものに、短い手紙が添えてあるらしかった。主人はまずその手紙だけを読んでしまって、一座のわれわれの方へ再び向き直った。 「ちょっと皆さんに申上げたいことがございます。わたくしの友人のTという男

文字遣い

新字新仮名

初出

「慈悲心鳥」国文堂、1920(大正9)年9月

底本

  • 蜘蛛の夢
  • 光文社文庫、光文社
  • 1990(平成2)年4月20日