にじゅうくにちのぼたもち
廿九日の牡丹餅

冒頭文

一 六月末の新聞にこんな記事が発見された。今年は暑気が強く、悪疫(あくえき)が流行する。これを予防するには、家ごとに赤飯を炊(た)いて食えと言い出した者がある。それが相当に行われて、俄かに赤飯を炊いて疫病(やくびょう)よけをする家が少くないという。今日(こんにち)でも東京のまん中で、こんな非科学的のお呪禁(まじない)めいたことが流行するかと思うと、すこぶる不思議にも感じられるのであるが、文明

文字遣い

新字新仮名

初出

「富士」1936(昭和11)年7月

底本

  • 蜘蛛の夢
  • 光文社文庫、光文社
  • 1990(平成2)年4月20日