へいぞうとおつる |
平造とお鶴 |
冒頭文
N君は語る。 明治四年の冬ごろから深川富岡門前の裏長屋にひとつの問題が起った。それは去年の春から長屋の一軒を借りて、ほとんど居喰い同様に暮らしていた親子の女が、表通りの小さい荒物屋の店をゆずり受けて、自分たちが商売をはじめることになったというのである。 母はおすまといって、四十歳前後である。娘はお鶴といって、十八、九である。その人柄や言葉づかいや、すべての事から想像して、かれら
文字遣い
新字新仮名
初出
「文藝講談」1927(昭和2)年1月
底本
- 蜘蛛の夢
- 光文社文庫、光文社
- 1990(平成2)年4月20日