ねずみざか |
鼠坂 |
冒頭文
小日向(こびなた)から音羽(おとわ)へ降りる鼠坂(ねずみざか)と云う坂がある。鼠でなくては上がり降りが出来ないと云う意味で附けた名だそうだ。台町の方から坂の上までは人力車が通うが、左側に近頃(ちかごろ)刈り込んだ事のなさそうな生垣を見て右側に広い邸跡(やしきあと)を大きい松が一本我物顔に占めている赤土の地盤を見ながら、ここからが坂だと思う辺まで来ると、突然勾配(こうばい)の強い、狭い、曲りくねった
文字遣い
新字新仮名
初出
「中央公論」1912(明治45)年4月
底本
- 灰燼 かのように 森鴎外全集3
- ちくま文庫、筑摩書房
- 1995(平成7)年8月24日