ししん
私信

冒頭文

叔母さん。けさほどは、長いお手紙をいただきました。私の健康状態やら、また、将来の暮しに就(つ)いて、いろいろ御心配して下さってありがとうございます。けれども、私はこのごろ、私の将来の生活に就いて、少しも計画しなくなりました。虚無ではありません。あきらめでも、ありません。へたな見透しなどをつけて、右にすべきか左にすべきか、秤(はかり)にかけて慎重に調べていたんでは、かえって悲惨な躓(つまず)きをする

文字遣い

新字新仮名

初出

「都新聞」1941(昭和16)年12月2日

底本

  • 太宰治全集10
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1989(平成元)年6月27日