ふるさとによするさんか ゆめのそうりょうはくうきであった
ふるさとに寄する讃歌 夢の総量は空気であった

冒頭文

私は蒼空を見た。蒼空は私に泌みた。私は瑠璃色の波に噎ぶ。私は蒼空の中を泳いだ。そして私は、もはや透明な波でしかなかった。私は磯の音を脊髄にきいた。単調なリズムは、其処から、鈍い蠕動を空へ撒いた。 私は窶れていた。夏の太陽は狂暴な奔流で鋭く私を刺し貫いた。その度に私の身体は、だらしなく砂の中へ舞い落ちる靄のようであった。私は、私の持つ抵抗力を、もはや意識することがなかった。そして私は、強烈

文字遣い

新字新仮名

初出

「青い馬 創刊号」1931(昭和6)年10月1日

底本

  • 坂口安吾選集第三巻 小説3
  • 講談社
  • 1982(昭和57)年2月12日