むらのひとさわぎ
村のひと騒ぎ

冒頭文

その村に二軒の由緒正しい豪家があつた。生憎二軒も——いや、二軒しか、なかつたのだ。ところが、寒川家の婚礼といふ朝、寒原家の女隠居が、永眠した。やむなく死んだのであつて、誰のもくろみでもなかつたのである。ことわつておくが、この平和な村落では誰一人として仲の悪いといふ者がなく、慧眼な読者が軽率にも想像されたに相違ないやうに、寒川家と寒原家とは不和であるといふ不穏な考へは明らかに誤解であることを納得され

文字遣い

新字旧仮名

初出

「三田文学 第六巻第一〇号」三田文学会、1932(昭和7)年10月1日

底本

  • 坂口安吾全集 01
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年5月20日