なみ

冒頭文

ルクリュ家へ 一九一三年の初夏のころであつた。或る土曜日の午後私はベルギーの首都ブリュッセル東北隅のエミール・バンニング町にポール・ルクリュ翁を訪問した。ベルを鳴らすと翁自身が扉を開いて迎へてくれた。ネクタイもカラも著けず上衣も著けず、古びたチョッキと縞もわからないシャツを纒うて 「よく來てくれました、待つてゐました。ツ・ミン・イ君は?」 といひながら、私を應接室に導いてくれた。

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「平民新聞 第73号~第102号」1948(昭和23)年5月24日~12月27日

底本

  • 日本現代文學全集 32 社會主義文學集
  • 講談社
  • 1963(昭和38)年12月19日