あるむらのいつつのはなし
或る部落の五つの話

冒頭文

一 禿頭の消防小頭 或る秋の日曜日だった。小学校の運動場に消防演習があった。演習というよりは教練だった。警察署長が三つの消防組を統(す)べて各々の組長が号令をするのだった。号令につれて消防手の竿(さお)は右向き左向き縦隊横隊を繰り返すのだった。 その教練の始まる前だった。禿頭の老小頭(こがしら)が、見物人達の前へ来て何か得意らしい調子で話をしていた。 「どうも、小頭(こがしら

文字遣い

新字新仮名

初出

「文学時代」1929(昭和4)年10月号

底本

  • 佐左木俊郎選集
  • 英宝社
  • 1984(昭和59)年4月14日