あめのかみこうち |
| 雨の上高地 |
冒頭文
山好きの友人から上高地行を勧められる度に、自動車が通じるやうになつたら行くつもりだと云つて遁げてゐた。その言質をいよ〳〵受け出さなければならない時節が到来した。昭和九年九月廿九日の早朝新宿駅中央線プラットフォームへ行つて汽車を待つてゐると、湿つぽい朝風が薄い霧を含んでうそ寒く、行先の天気が気遣はれたが、塩尻まで来るととうとう小雨になつた。松本から島々までの電車でも時々降るかと思ふと又霽れたりしてゐ
文字遣い
新字旧仮名
初出
「登山とスキー」1935（昭和10）年10月
底本
- 現代日本紀行文学全集 中部日本編
- ほるぷ出版
- 1976（昭和51）年8月1日