えいがざっかん(しち)
映画雑感(Ⅶ)

冒頭文

一 影なき男 一種の探偵映画(たんていえいが)である。しかしこの映画のおもしろみはストーリーの猟奇的な探偵趣味よりもむしろウィリアム・パウェルという男とマーナ・ロイという女とこの二人の俳優の特異なパーソナリティの組み合わせと、その二人で代表された特異な夫婦間の情味にかかっているというのが定評となっているようである。ある人はこの夫婦の関係を一種のソフィスティケーションと見ている。その意味は

文字遣い

新字新仮名

初出

「渋柿」1935(昭和10)年10月10日

底本

  • 寺田寅彦全集 第十巻
  • 岩波書店
  • 1961(昭和36)年7月7日