われらのしめい
吾等の使命

冒頭文

一 清い艶やかな蓮華草は、矢張り野の面に咲き蔽ふてこそ美しいのである。谷間に咲ける白百合の花は、塵埃の都市に移し植うべく、余りに勿体なくはないか。跫音(あしおと)稀なる山奥に春を歌ふ鶯の声を聞いて、誰か自然の歌の温かさを感じないで居られやう。然るに世の多くの人々が、此美しい野をも山をも棄てゝ、宛(さな)がら「飛んで火に入る夏の虫」の如く、喧騒、雑踏、我慾、争乱の都会に走り来たるのは何故であら

文字遣い

新字旧仮名

初出

「自治農民 第1号」1926(大正15)年4月10日

底本

  • 石川三四郎著作集第二巻
  • 青土社
  • 1977(昭和52)年11月25日