しゅんちゅうごこく
春昼後刻

冒頭文

二十四 この雨は間(ま)もなく霽(は)れて、庭も山も青き天鵞絨(びろうど)に蝶花(ちょうはな)の刺繍(ぬいとり)ある霞(かすみ)を落した。何んの余波(なごり)やら、庵(いおり)にも、座にも、袖(そで)にも、菜種(なたね)の薫(かおり)が染(し)みたのである。 出家は、さて日(ひ)が出口(でぐち)から、裏山のその蛇(じゃ)の矢倉(やぐら)を案内しよう、と老実(まめ)やかに勧めたけ

文字遣い

新字新仮名

初出

「新小説」1906(明治39)年12月

底本

  • 春昼・春昼後刻
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1987(昭和62)年4月16日