いっせきかん
一夕観

冒頭文

其一 ある宵われ牕(まど)にあたりて横はる。ところは海の郷(さと)、秋高く天朗らかにして、よろづの象(かたち)、よろづの物、凛乎(りんこ)として我に迫る。恰(あたか)も我が真率ならざるを笑ふに似たり。恰も我が局促(きよくそく)たるを嘲るに似たり。恰も我が力なく能なく弁なく気なきを罵るに似たり。渠(かれ)は斯の如く我に徹透す、而して我は地上の一微物、渠に悟達することの甚(はな)はだ難きは如何ぞ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「評論 十六號」女學雜誌社、1893(明治26)年11月4日

底本

  • 現代日本文學大系 6 北村透谷・山路愛山集
  • 筑摩書房
  • 1969(昭和44)年6月5日