はるな |
榛名 |
冒頭文
眞夏の日中だのに褞袍(どてら)を着て、その上からまだ毛絲の肩掛を首に卷いた男が、ふらふら汽車の中に這入つて來た。顏は青ざめ、ひよろけながら空席を見つけると、どつと横に倒れた。後からついて來た妻女が氷嚢を男の額にあてて、默つて周圍の客の顏を眺めてゐる。あれはもう助からぬと私は思つた。私は良人の死顏を見たときに泣く妻女の姿をふと頭に浮べたが、急いでもみ消すやうに横を見た。もう私は考へたくはない。私は考
文字遣い
旧字旧仮名
初出
「中央公論」1922(大正11)年1月
底本
- 現代日本紀行文学全集 東日本編
- ほるぷ出版
- 1976(昭和51)年8月1日