たそがれのこくはく |
黄昏の告白 |
冒頭文
沈み行く夕陽(ゆうひ)の最後の光が、窓硝子(ガラス)を通して室内を覗(のぞ)き込んでいる。部屋の中には重苦しい静寂が、不気味な薬の香りと妙な調和をなして、悩ましき夜の近づくのを待っている。 陽春のある黄昏(たそがれ)である。しかし、万物甦生(そせい)に乱舞するこの世の春も、ただこの部屋をだけは訪れるのを忘れたかのように見える。 寝台(ベッド)の上には、三十を越してまだいくらにも
文字遣い
新字新仮名
初出
「新青年」博文館、1929(昭和4)年7月
底本
- 新青年傑作選第一巻(新装版)
- 立風書房
- 1991(平成3)年6月10日