しょきかん |
書記官 |
冒頭文
一 笆(まがき)に媚(こ)ぶる野萩(のはぎ)の下露もはや秋の色なり。人々は争うて帰りを急ぎぬ。小松の温泉(いでゆ)に景勝の第一を占めて、さしも賑(にぎ)わい合えりし梅屋の上も下も、尾越しに通う鹿笛(しかぶえ)の音(ね)に哀れを誘われて、廊下を行(ゆ)き交(か)う足音もやや淋(さび)しくなりぬ。車のあとより車の多くは旅鞄(たびかばん)と客とを載せて、一里先なる停車場(すていしょん)を指して走り
文字遣い
新字新仮名
初出
「太陽」1895(明治28)年2月
底本
- 日本の文学 77 名作集(一)
- 中央公論社
- 1970(昭和45)年7月5日