あきや
空家

冒頭文

上 麑島謀反(かごしまむほん)の急報は巻き来たる狂瀾(きょうらん)のごとく九州の極より極に打てり、物騒なる風説、一たびは熊本城落ちんとするの噂(うわさ)となり、二たびは到るところの不平士族賊軍に呼応して、天下再び乱れんとするの杞憂(きゆう)となり、ついには朝廷御危しとの恐怖となり、世間はみずから想像してみずから驚愕(きょうがく)せり、ただ生活に窮せる士族、病人に棄てられたる医者、信用なき商人

文字遣い

新字新仮名

初出

「国民之友」1889(明治24)年8月

底本

  • 日本の文学 77 名作集(一)
  • 中央公論社
  • 1970(昭和45)年7月5日