ますいざい
麻酔剤

冒頭文

「わたしなんか、麻酔剤をかけなければならぬような手術をうけるとしたら、知らないドクトルの手にはかかりたくありませんね」 と美くしいマダム・シャリニがいいだした。 「そんなときは、やっぱり恋人の手で麻酔(ねむ)らせて貰わなければね」 老ドクトルは、自分の職業のことが話題にのぼったので、遠慮して黙りこんでいたが、そのとき初めて首をふって、 「それは大変な考え違いですよ、マダム。

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年」1923(大正12)年8月増刊号

底本

  • 夜鳥
  • 創元推理文庫、東京創元社
  • 2003(平成15)年2月14日