ひびこうしゃ |
被尾行者 |
冒頭文
市内電車の隅の方に、熱心に夕刊を読んでいる鳥打帽の男の横顔に目をそそいだ瞬間、梅本清三の心臓は妙な搏(う)ち方をした。 「たしかに俺をつけているんだ」清三は蒼ざめながら考えた。「あれはきょう店へ来た男だ。主人に雇われた探偵にちがいない。主人はあの男に俺の尾行を依頼したんだ」 清三は貴金属宝石を商う金星堂の店員だった。そうして、今何気ない風を装ってうす暗い灯の下で夕刊を読んでいる男が、今
文字遣い
新字新仮名
初出
「サンデー毎日 新春特別号」1929(昭和4)年1月
底本
- 探偵クラブ 人工心臓
- 国書刊行会
- 1994(平成6)年9月20日