たいふうざっそ |
颱風雑俎 |
冒頭文
昭和九年九月十三日頃南洋パラオの南東海上に颱風(たいふう)の卵子(たまご)らしいものが現われた。それが大体北西の針路を取ってざっと一昼夜に百里程度の速度で進んでいた。十九日の晩ちょうど台湾の東方に達した頃から針路を東北に転じて二十日の朝頃からは琉球列島にほぼ平行して進み出した。それと同時に進行速度がだんだんに大きくなり中心の深度が増して来た。二十一日の早朝に中心が室戸岬(むろとざき)附近に上陸する
文字遣い
新字新仮名
初出
「思想」1935(昭和10)年2月1日、「吉村冬彦」署名で。
底本
- 寺田寅彦全集 第七巻
- 岩波書店
- 1997(平成9)年6月5日