いしがめのこと
石亀のこと

冒頭文

鮎は、毛鈎(けばり)や友鈎で掛けるばかりでなく、餌に食いつくのは、誰も知っている。 私が少年のころ、父と共に利根川で用いていた毛鈎は、播州ものの甚だ粗末な出来であった。近年のように加賀鈎や土佐鈎のように精巧のものは、見たこともなかったのである。だから、毛鈎で若鮎を釣るのに、必ず餌をつけたものだ。 最も広く用いられたのが、魚の蛆(うじ)であった。空鈎(からばり)を水中へ流しても釣

文字遣い

新字新仮名

初出

「釣趣戯書」三省堂、1942(昭和17)年

底本

  • 垢石釣り随筆
  • つり人ノベルズ、つり人社
  • 1992(平成4)年9月10日