ならのわかば
楢の若葉

冒頭文

いま、想いだしても、その時のことがはっきりと頭に浮かび、眼にも描かれる。 三十五、六年前の四月二十四日のひる前であった。私は十二、三歳の少年。父は三十七、八歳。溢れるような元気に満ちた壮者であったに違いない。 はやは、利根川の雪代(ゆきしろ)水を下流から上流へ上流へと遡(のぼ)ってきた。はやという魚は、おいしいとほめるほどでもないが、産卵期が近づくと、にわかに活動が盛んになって

文字遣い

新字新仮名

初出

「釣りの本」改造社、1938(昭和13)年

底本

  • 垢石釣り随筆
  • つり人ノベルズ、つり人社
  • 1992(平成4)年9月10日