おせっかいふじん
おせっかい夫人

冒頭文

午前十一時半から十二時ちょっと過ぎまでの出来事です。うらうらと晴れた春の日の暖気に誘われて花子夫人は三時間も前に主人を送り出した門前へまたも出て見ました。糸目の艶をはっきりたてた手際(てぎわ)の好い刺繍(ししゅう)です。そこに隣家国枝さんとの境の垣に金紅色の蕾(つぼみ)を寄り合わせ盛り合わせているぼけの枝は——だが、その蔭にうろうろしていたのは可愛ゆいカナリヤの雛(ひな)ではありませんでした。黒っ

文字遣い

新字新仮名

初出

「週刊朝日」1934(昭和9)年4月1日

底本

  • 岡本かの子全集2
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1994(平成6)年2月24日