けっとうじょう
決闘場

冒頭文

ロンドンの北隅ケンウッドの森には墨色で十数丈のシナの樹や、銀色の楡(にれ)の大樹が逞(たく)ましい幹から複雑な枝葉を大空に向けて爆裂させ、押し拡げして、澄み渡った中天の空気へ鮮やかな濃緑色を浮游させて居る。立ち並ぶそれらの大樹の根本を塞(ふさ)ぐ灌木(かんぼく)の茂みを、くぐりくぐってあちらこちらに栗鼠(りす)や白雉子(きじ)が怪訝(けげん)な顔を現わす。時には大きい体の割りに非常に素早しっこい孔

文字遣い

新字新仮名

初出

「ペン」1936(昭和11)年11月号

底本

  • 岡本かの子全集2
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1994(平成6)年2月24日