くちびるそう |
唇草 |
冒頭文
今年の夏の草花にカルセオラリヤが流行(はや)りそうだ。だいぶ諸方に見え出している。この間花屋で買うとき、試しに和名を訊ねて見たら、 「わたしどもでは唇草といってますね、どうせ出鱈目(でたらめ)でしょうが、花の形がよく似てるものですから」 と、店の若者はいった。 青い茎の尖に巾着のように膨らんで、深紅の色の花が括(くく)りついている。花は、花屋の若者にそういわれてから、全く人間
文字遣い
新字新仮名
初出
「週刊朝日」1937(昭和12)年8月2日
底本
- 岡本かの子全集3
- ちくま文庫、筑摩書房
- 1993(平成5)年6月24日第1刷