そうし
荘子

冒頭文

紀元前三世紀のころ、支那では史家が戦国時代と名づけて居る時代のある年の秋、魏の都の郊外櫟社(れきしゃ)の附近に一人の壮年=荘子が、木の葉を敷いて休んでいた。 彼はがっちりした体に大ぶ古くなった袍(ほう)を着て、樺の皮の冠を無雑作(むぞうさ)に冠(かぶ)って居た。 顔は鉛色を帯びて艶(つや)が無く、切れの鋭い眼には思索に疲れたものに有勝(ありが)ちなうるんだ瞳をして居た。だが、顔

文字遣い

新字新仮名

初出

「三田文学」1935(昭和10)年12月号

底本

  • 岡本かの子全集2
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1994(平成6)年2月24日