とうふかい
豆腐買い

冒頭文

おもて門の潜戸(くぐりど)を勇んで開けた。不意に面とむかった日本の道路の地面が加奈子の永年踏み馴れた西洋道路の石の碁盤面(ごばんめん)の継ぎ目のあるのとは違った、いかにも日本の東京の山の手の地面らしく、欠けた小石を二つ三つ上にのせて、風の裾に吹かれている。失礼! と言い度(た)い程加奈子には土が珍らしく踏むのが勿体(もったい)ない。加奈子の靴尖(くつさき)が地面の皮膚の下に静脈の通っていなそうな所

文字遣い

新字新仮名

初出

「三田文学」1934(昭和9)年6月号

底本

  • 岡本かの子全集2
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1994(平成6)年2月24日