ガルスワーシーのいえ
ガルスワーシーの家

冒頭文

ロンドン市の北郊ハムステットの丘には春も秋もよく太陽が照り渡った。此(こ)の殆(ほと)んど何里四方小丘の起伏する自然公園は青く椀状にくねってロンドン市の北端を抱き取って居る。丘の表面には萱(かや)、えにしだ、野薔薇(ばら)などが豊かに生い茂り、緻密(ちみつ)な色彩を交ぜ奇矯な枝振りを這(は)わせて丘の隅々までも丹念な絵と素朴な詩とを織り込んで居る。景子のロンドンに於ける仮寓は此の丘の中に在った。

文字遣い

新字新仮名

初出

「行動」1934(昭和9)年7月号

底本

  • 岡本かの子全集2
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1994(平成6)年2月24日