おうがいをかたる |
鴎外を語る |
冒頭文
鴎外を語るといつても、個人的接触のごとき事実は殆ど無く、これを回想してみるよすがもない。をかしなことである。錯戻であらう。さうも思はれるぐらゐ、自分ながら信じられぬことである。 それにはちがひないが、鴎外としいへば、その影は、これまでとてもいつぞわたくしから離れ去つたといふ期間はなかつた。それはむしろ離れしめなかつたといつて好い。頭のどこかに鴎外の言葉が聞える。聞く。その聞いたことを、わ
文字遣い
新字旧仮名
初出
「藝林間歩 第二十一号」1948(昭和23)年4月
底本
- 蒲原有明論考
- 明治書院
- 1965(昭和40)年3月5日