ふたりのおとこ
二人の男

冒頭文

九月のある朝。初秋の微風が市街の上空をそよそよとゆれ渡つてゐた。めづらしく平穏な朝で、天と気は澄みわたり、太陽の光りが輝やき充ちてゐた。北輝雄は未だ夏期(なつ)の暖(ぬる)みの去らない光明を頭からいつぱい浴びながら、無細工な大きな卓机にもたれかゝつていゝ気持でうつとりしてゐた。やうやく三十分前ばかりに眼を醒ましたところだつた。彼の勉強室でもあり、仕事室でもあり、応接室でもあり、また食堂でもあり、一

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新潮 第三十二巻第一号」新潮社、1920(大正9)年1月1日

底本

  • 編年体大正文学全集 第九巻 大正九年
  • ゆまに書房
  • 2001(平成13)年12月10日