ハビアンせっぽう
ハビアン説法

冒頭文

昨日はよつぽど妙な日だつた。日曜のくせにカラリと晴れた。これが第一をかしい。無精な私が散歩に出る気になつた。これも妙だ。北条の腹切り窟(やぐら)の石塔を、今のうちに撮影しておかうなどと、殊勝な心掛をおこした。これが第三にをかしい。おまけにまた……いや、順を追つて話すとしよう。 とにかく、カメラをぶらさげて家を出た。Nといふ小川を渡る。そこから爪先(つまさき)あがりになつて、やがて細い坂道

文字遣い

新字旧仮名

初出

「朝日評論」1950(昭和25)年1月

底本

  • 日本幻想文学集成19 神西清
  • 国書刊行会
  • 1993(平成5)年5月20日