ようせつしたとみながたろう
夭折した富永太郎

冒頭文

ほつそりと、だが骨組はしつかりしてゐた、その躯幹の上に、小さな頭が載つかつてゐた。赤い攣(ちぢ)れた髪毛が額に迫り、その下で紅と栗との軟い顔がほつとり上気してゐる。黒く澄んだ、黄楊(つげ)の葉の目が、やさしく、ただしシニカルでありたさうに折々見上げる。 彼は今日、重(ママ)欝なのだ。卓子(テーブル)に肘を突いたまゝ、ゆつくり煙を揚げてゐる。尤(もつと)も喫つてゐるものだけはうまさうだが。

文字遣い

新字旧仮名

初出

「山繭」1926(大正15)年11月号

底本

  • 富永太郎詩集
  • 思潮社
  • 1975(昭和50)年 7月10日