くじょしょうろく |
痀女抄録 |
冒頭文
先き頃、京阪方面の古刹めぐりから戻られた柳井先生の旅がたりのうちに、大和(やまと)中宮寺の「天寿国曼荼羅」のおはなしがあった。わたくしは不幸にして未だに中宮寺をおとなう折にはめぐまれぬけれども、その曼荼羅繍帳にふれては、これまでも幾たびか人にもきかされ書物でも読んだ憶えがあるので、先生のおはなしにはひとしお惹かれるものがあった。 現存する繍帳は片々たる小断欠を接ぎあわせたわずか方三尺たら
文字遣い
新字新仮名
初出
「改造」1939(昭和14)年7月号
底本
- 神楽坂・茶粥の記 矢田津世子作品集
- 講談社文芸文庫、講談社
- 2002(平成14)年4月10日