おんなごころしゅうい
女心拾遺

冒頭文

一 常は無駄口の尠い唐沢周得氏が、どうしたはずみか、この数日来妙に浮きたって、食事の間も駄洒落をとばしたりしては家人を笑わせたりする。もともと脂肪(あぶら)肥りの血色のよい膚(はだえ)が、こんな時には、磨きをかけたように艶光りして、血糸の綾(あや)がすけてみえる丸っこい鼻の頭には、陽ざしに明るい縁の障子が白く写っているように見える。前歯の綺麗に残っている口を大きく開けて、わっはっはっと身をも

文字遣い

新字新仮名

初出

「文学界」1936(昭和11)年12月号

底本

  • 神楽坂・茶粥の記 矢田津世子作品集
  • 講談社文芸文庫、講談社
  • 2002(平成14)年4月10日