ぎせいしゃ |
犠牲者 |
冒頭文
一、小さな幸福 中学の課程すらも満足に了(お)えていない今村謹太郎(いまむらきんたろう)にとっては、浅野護謨(あさのごむ)会社事務員月給七十五円という現在の職業は、十分満足なものであった。自分のような、何処といって取柄のない人間を、大金を出して雇ってくれている雇主(やといぬし)は世にも有り難い人であると、彼はいつも心から感謝していた。 彼は、それだけの給料で、ささやかながらも、見か
文字遣い
新字新仮名
初出
「新青年」博文館、1926(大正15)年5月号
底本
- 「新青年」傑作選 幻の探偵雑誌10
- 光文社文庫、光文社
- 2002(平成14)年2月20日