キャラコさん 03 あしとフリュート |
キャラコさん 03 蘆と木笛 |
冒頭文
一 風がまだ冷たいが、もう、すっかり春の気候で、湖水は青い空をうつして、ゆったりとくつろいでいる。 キャラコさんは、むずかしい顔をして、遊覧船の桟橋(さんばし)で、釣りをするのを眺めている。すこしばかり機嫌が悪いのである。 キャラコさんは、半月ほど前から、蘆(あし)の湖の近くの小さな温泉宿で、何ともつかぬとりとめのない日を送っている。本を読むか、日記をつけるか、散歩をする
文字遣い
新字新仮名
初出
「新青年」博文館、1939(昭和14)年3月号
底本
- 久生十蘭全集 Ⅶ
- 三一書房
- 1970(昭和45)年5月31日