たちばなのあけみ |
橘曙覧 |
冒頭文
曙覧は文化九年、福井市内屈指の紙商、井手正玄の長男として生れたが、父祖の余沢に浴することをせず、豊かな家産と名跡、家業を悉く異母弟に譲つて、郷里を離れた山里や町はづれに、さゝやかな藁家を構へ、学究歌道に専念した。庶民の子として、これはあるまじき独行であつた。若くして仏教を学び或は窃かに京師に赴いて、頼山陽の高弟児玉三郎(旗山)の塾に入り、呼び返されても、一途にもたげる学究の炎は消えず、江戸に走つて
文字遣い
新字旧仮名
初出
「東京新聞」1943(昭和18)年2月26日
底本
- 折口信夫全集 14
- 中央公論社
- 1996(平成8)年5月25日