しんじゅとうのひみつ
真珠塔の秘密

冒頭文

一 長い陰気な梅雨が漸(ようや)く明けた頃、そこにはもう酷(きび)しい暑さが待ち設けて居て、流石(さすが)都大路も暫(しばら)くは人通りの杜絶える真昼の静けさから、豆腐屋のラッパを合図に次第(しだい)に都の騒がしさに帰る夕暮時、夕立の様な喧(やかま)しい蝉の声を浴びながら上野(うえの)の森を越えて、私は久し振りに桜木町(さくらぎちょう)の住居に友人の橋本敏(はしもとびん)を訪ねた。親しい間と

文字遣い

新字新仮名

初出

「新趣味」1923(大正12)年8月号

底本

  • 「新趣味」傑作選 幻の探偵雑誌7
  • 光文社文庫、光文社
  • 2001(平成13)年11月20日