ちちのかいだん
父の怪談

冒頭文

今度はわたしの番になった。席順であるから致し方がない。しかし私には適当な材料の持ち合わせがないので、かつて父から聴かされた二、三種の怪談めいた小話をぽつぽつと弁じて、わずかに当夜の責任を逃がれることとした。 父は天保五年の生まれで、その二十一歳の夏、安政元年のことである。麻布竜土町にある某大名——九州の大名で、今は子爵になっている——の下屋敷に不思議な事件が起こった。ここは下屋敷であるか

文字遣い

新字新仮名

初出

「新小説」1924(大正13)年4月

底本

  • 文藝別冊[総特集]岡本綺堂
  • 河出書房新社
  • 2004(平成16)年1月30日