きそのえてもの ――「にほんようかいじったん」より |
木曽の怪物 ――「日本妖怪実譚」より |
冒頭文
これは亡父の物語。頃は去る明治二十三年の春三月、父は拠(よんどこ)ろなき所用あって信州軽井沢へ赴いて、凡(およ)そ半月ばかりも此の駅(しゅく)に逗留していた。東京では新暦の雛の節句、梅も大方は散(ちり)尽(つ)くした頃であるが、名にし負う信濃路は二月の末から降(ふり)つづく大雪で宿屋より外へは一歩(ひとあし)も踏出されぬ位、日々炉を囲んで春の寒さに顫(ふる)えていると、ある日の夕ぐれ、山の猟師が一
文字遣い
新字新仮名
初出
「文芸倶楽部 日本妖怪実譚」1902(明治35)年7月
底本
- 伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集
- 学研M文庫、学習研究社
- 2002(平成14)年3月29日