おさかべひめ
小坂部姫

冒頭文

双(ならび)ヶ岡(おか) 一 「物申(も)う、案内(あない)申う。あるじの御坊おわすか。」 うす物の被衣(かつぎ)の上に檜木笠を深くした上﨟ふうの若い女が草ぶかい庵(いおり)の前にたたずんで、低い優しい声で案内を求めた。南朝の暦応三年も秋ふけて、女の笠の褄(つま)をすべる夕日のうすい影が、かれの長い袂にまつわる芒(すすき)の白い穂を冷たそうに照らしていた。 一度呼んでも

文字遣い

新字新仮名

初出

「婦人公論」1920(大正9)年10月号~

底本

  • 伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集
  • 学研M文庫、学習研究社
  • 2002(平成14)年3月29日