くぎぬきとうきちとりものおぼえがき 07 かいだんぬけじごく |
釘抜藤吉捕物覚書 07 怪談抜地獄 |
冒頭文
一 近江屋の隠居が自慢たらたらで腕を揮(ふる)った腰の曲がった蝦(えび)の跳ねている海老床の障子に、春は四月の麗(うらら)かな陽が旱魃(ひでり)つづきの塵埃(ほこり)を見せて、焙烙(ほうろく)のように燃えさかっている午さがりのことだった。 八つを告げる回向院(えこういん)の鐘の音が、桜花(はな)を映して悩ましく霞んだ蒼穹(あおぞら)へ吸われるように消えてしまうと、落着きのわるい床几
文字遣い
新字新仮名
初出
「探偵文藝」1925(大正14)年5月
底本
- 一人三人全集Ⅰ時代捕物釘抜藤吉捕物覚書
- 河出書房新社
- 1970(昭和45)年1月15日