はなにもとづくさつじん
鼻に基く殺人

冒頭文

「もうじき、弘(ひろむ)ちゃんが帰ってくるから、そうしたら、病院へつれて行って貰いなさい」 由紀子は庭のベンチに腰かけて、愛犬ビリーの眼や鼻をガーゼで拭(ぬぐ)ってやりながら、人の子に物言うように話すのであった。 「ほんとうに早くなおってよかったわねえ、お昼には何を御馳走してあげましょうか」 ビリーはまだ、何となく物うげであった。彼は坐ったまま尾をかすかに振るだけであった。呼吸器

文字遣い

新字新仮名

初出

「文学時代」1929(昭和4)年5月号

底本

  • 怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2002(平成14)年2月6日