ねことむらまさ |
猫と村正 |
冒頭文
「母危篤(きとく)すぐ帰れ」という電報を受取った私は、身仕度もそこそこに、郷里名古屋に帰るべく、東京駅にかけつけて、午後八時四十分発姫路行第二十九号列車に乗りこんだ。この列車は昨今「魔の列車」と呼ばれて盗難その他の犯罪に関する事件が頻々として起り、人々の恐怖の焦点となって居て、私も頗(すこぶ)る気味が悪かったけれど、母の突然の病気が何であるのかわからず、或は母が既に死んだのではなかろうかとも思って
文字遣い
新字新仮名
初出
「週刊朝日特別号」1926(大正15)年7月号
底本
- 怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集
- ちくま文庫、筑摩書房
- 2002(平成14)年2月6日