ちのさかづき
血の盃

冒頭文

一 因果応報は仏教の根本をなす思想であって、私たち日本人も、伝統的にこの因果応報の観念に支配され、悪いことをすれば、必ずそれに対するむくいが来はしないかと、内心ひそかに恐れ慄(おのの)くのが常である。そうした恐怖が一旦人の心に蟠(わだかま)ると、何か悪い出来事が起るまでは、その恐怖心が漸次(ぜんじ)に膨脹して行って、遂にその恐怖心そのものが、怖ろしい出来事を導くに至るものである。他人を殺

文字遣い

新字新仮名

初出

「現代」1926(大正15)年7月号

底本

  • 怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2002(平成14)年2月6日