きょうじょといぬ
狂女と犬

冒頭文

京都の高等学校に居た頃、——それはたしか明治四十一年だったと思うが——私は、冬休みに、京都から郷里の名古屋まで、名所見物を兼ねて、徒歩で帰ろうと思い立った。汽車ならば五時間、悪七兵衛景清(あくしちべえかげきよ)ならば十時間かからぬくらいの道程(みちのり)を五日の予定で突破? しようというのであるから、可なりゆっくりした気持の旅であった。私は旅をするとき、道連れのあるのが大嫌いで、その時も、単身学校

文字遣い

新字新仮名

初出

「大衆文芸」1926(大正15)年7月

底本

  • 怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2002(平成14)年2月6日