いでん |
遺伝 |
冒頭文
「如何(どう)いう動機で私が刑法学者になったかと仰(おっ)しゃるんですか」と、四十を越したばかりのK博士は言った。「そうですねえ、一口にいうと私のこの傷ですよ」 K博士は、頸部の正面左側にある二寸(すん)ばかりの瘢痕(はんこん)を指した。 「瘰癧(るいれき)でも手術なすった痕(あと)ですか」と私は何気なくたずねた。 「いいえ、御恥かしい話ですが……手っ取り早くいうならば、無理心中をし
文字遣い
新字新仮名
初出
「新青年」博文館、1925(大正14)年9月号
底本
- 怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集
- ちくま文庫、筑摩書房
- 2002(平成14)年2月6日