がらすまど
硝子窓

冒頭文

○ 『何か面白い事は無いかねえ。』といふ言葉は不吉な言葉だ。此二三年來、文學の事にたづさはつてゐる若い人達から、私は何囘この不吉な言葉を聞かされたか知れない。無論自分でも言つた。——或時は、人の顏さへ見れば、さう言はずにゐられない樣な氣がする事もあつた。 『何か面白い事は無いかねえ。』 『無いねえ。』 『無いねえ。』 さう言つて了つて口を噤むと、何がなしに焦々した不愉快な氣持が滓(か

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「新小説 十五ノ六」1910(明治43)年6月

底本

  • 啄木全集 第十卷
  • 岩波書店
  • 1961(昭和36)年8月10日